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「エル・シド」再び [映画の雑感日記]

 先日、「天気の子」が興収100億円を超えたというニュースがあった。興収200億円超えの「君の名は。」の新海監督によるアニメである。それ自体はある意味おめでたいことでケチをつける気は全くない。ただ、「君の名は。」は私も見たが、(男女入れ替わりや次元、時制の問題などそれなりにうまく処理されてはいたものの)なんだか既視感が先に立って退屈なものだった。なんであんなにヒットしたのか、老化した頭では理解できない。その同じ監督のアニメと考えると、どうももう一つ見に行こうという気になれないのだ。まあ、テレビ放映時に時間がとれれば見るだろうとは思うが。
 ところで、そのニュースの中で今年は早くも100億円超えの映画がこれで3本になったと伝えていた。残りの2本は「トイ・ストーリー4」と「アラジン」のいずれもディズニー映画。「アラジン」は外国のサイトにアップされているものを見たが(英語がダメなので半分も理解できないということを差し置いても)退屈なものだった。一応「実写版」と言われているが全編CGのようなものだ。以前、アニメとして作っているので今度は「実写」と宣伝したらまたまた儲かったということだ。アクドイなあ。「トイ・ストーリー」については、かなり以前に「1」を見たがつまらなかったので、時間が限られている老人としては、見る予定はない。
 だからといってダメな映画と言っているわけではない。
 老人が見るにはあまり合わない映画だと言っているだけで、それ以上でも以下でもない(もちろん、感性にぴったりでおもしろかったと言う老人がいても否定はしない)。少数のマニア相手の映画事情は知らないが、大々的な商業映画で、老人が見てもそれなりに感動できる映画が少なくなったのは事実だろう。こちらの感性が鈍くなったからとは、思いたくない。去年を振り返っても感動ではたのは、「ボヘミアン・ラプソディー」くらいのものだ。話題になる洋画はほとんどがディズニーお子様ランチかマーベルコミック物、邦画はホラーかファンタジー物ばかり。もちろん、質のいいおもしろい映画も作られているのだろうとは思うのだが、情弱の年寄りのもとにはなかなか情報が入ってこない。
 救いは若いころ見ておもしろかった映画で、今見てもおもしろい映画があることだ(もちろん例外はあって、東映のチャンバラ時代劇やボブ・ホープ&ビング・クロスビーの「珍道中」シリーズなど今ではテンポも悪くシナリオも雑。退屈でとても最後まで見られない)。
 ということで、前回の「ベン・ハー」に習って、今回は同じくチャールトン・ヘストン主演の歴史劇大作「エル・シド」を見た。これも3時間を超え、途中でインターミッションの入る70mm大作である。映画の出来としては「ベン・ハー」より2ランクは落ちるが、「ベン・ハー」は映画史に残る大傑作。細かいところで気になる点はいくつかあるが、これはこれで見応え十分の映画であることをあらためて確認した。もう40年以上も前のことになるがテレビ東京で放送されたとき、解説の故・山城新伍が「最近もおもしろい映画は作られていますが、この映画のように格調をもった映画というのは少なくなった気がします」と言っていたが、全くその通りである。
 例によって、以前書いた雑文(加筆あり)をコピペしておく。

↓予告編
https://trailers.moviecampaign.com/detail/6529
エル・シド.jpg

70mm史劇大作「エル・シド」

 今ではほとんど忘れられかかっている映画「エル・シド」(1961)について書こうと思う。異教徒からスペインを救った中世スペインの英雄ロドリゴ・ディアス(強いだけではなく情けも知る武将であったことからエル・シドと称された)の物語である。
 主演は「ベン・ハー」のチャールトン・ヘストン、ヒロインにソフィア・ローレンという両アカデミー賞受賞俳優、監督に「ウインチェスター銃73」のアンソニー・マンという70ミリ大作で、半世紀も前の封切り時にはそれなりに話題になりヒットもしたのだが、最近では話題にのぼることもあまりない。3時間を超える長編なのでTV放映されることも今ではまずない。あっても大幅にカットされているのが常なので見る気はしない。かつてレーザーディスクが出ていたが、今はどうだろう? しかし、この映画、「昔の映画」という一言で消してしまうには、あまりに惜しい。
 手近な本をめくってみたらある作家が映画に関するエッセイの中で「エル・シド」に触れていた。が、合戦シーンなどスタンリー・キューブリックの「スパルタカス」がいかによくできていて、「エル・シド」がダメなのかという証拠として触れられているだけなのでちょっと異論がある。「スパルタカス」は、私が映画のベストテンを選べば必ず入ってくるほどの名作で、そういった映画史に残る名作と比べて駄作と決めつけられたのでは、かわいそうな気がするのである。その辺も含めて書いていきたい。

 制作は、当時スペインに本拠をかまえ、キリストの生涯を描いた「キング・オブ・キングス」、故・伊丹十三(当時、一三)も出ていた「北京の55日」、「ベンハー」の仇役メッサラのスティーブン・ボイド主演の「ローマ帝国の崩壊」などの70ミリ大作を続々と制作していたサミュエル・ブロンストン。スベクタクル好きの私は、「70ミリ映画は全部見てやるぞ」と心に決め「黄金の矢」「シエラザード」果ては大映の「釈迦」や「秦始皇帝」などという際物まで見ていたくらいだから、上記の作品はもちろん総て見ている。プロンストンの作品は、それぞれスケ−ルの大きさには目を見張るものがあるが、正直隙間風が吹き抜けるといったものが多く、唯一、スペインの英雄を主人公にしたこの「エル・シド」がロケーションの素晴らしさとあいまって最高の出来栄えとなったのである(と、思っている)。
 監督は、前年一旦「スパルタカス」の監督に決まりながらもプロデューサー兼主演のカーク・ダグラスと衝突して監督の座を追われたアンソニー・マン。紀元前と中世の違いこそあれ、同じ70ミリ大作の歴史劇ということもあり、「この映画で見返してやるんだ」といった気迫が画面の随所に感じられる。原作はコルネイユの「ル・シッド」(この戯曲を読みたいだけのために私は筑摩書房の世界文学大系「古典劇集」という菊判の分厚い本を買ってしまったのだ)といえないこともないが、コルネイユの戯曲は「ロミオとジュリエット」に代表されるような家と家との対立という部分に力点が置かれており、別にスペクタクル史劇ではない。映画は別物と考えた方がいい。また後に岩波文庫から「エル・シードの歌」という叙事詩が出たが、こちらのほうがまだ映画に近いと言える(ただし、全編読むのはかなり退屈でシンドイ)。
 主演のチャールトン・ヘストンは、まさに適役。風貌といい彼以外にエル・シド役は考えられないといってもいい。ヒロインもソフィア・ローレンのような大柄の女優でなくては騎士の妻は勤まらない。スペインを侵略するイスラム教徒の敵役ハーバート・ロムは「ピンク・パンサー」で間抜けな警部役を演じている俳優だが、ここでは憎らしいほどの鬼気迫る演技を見せている。従って敵が巨大で憎らしいほど、エル・シドの活躍もまた引き立つというわけである。細かいことを書くと、ローレンと張合う王女役のジュヌヴィエーヴ・パージュはビリー・ワイルダー監督の「シャーロック・ホームズの冒険」にも出ているのだが、この映画の音楽が「エル・シド」と同じミクロス・ローザというのは、何かの因縁か?

 エル・シドの主な戦いは4つ。
 最初は、後に彼の妻となるシメーヌの父親との闘い。これは、家と騎士の名誉を賭けた闘いで、相手が婚約者の父ということもあり、建物の中で行われ、エル・シドの闘いたくはないのだが闘わなければならない心情を表すように、画面全体が暗い。ただ。現代の感覚から言うと、そこまで家の名誉を重んじるというというのは、ちょっとわかりづらい。
 2番目がカラオーラという土地の所有をかけた王の最高騎士としての闘い。相手の挑戦を受ける建物の中(相手の投げた手袋を拾い上げる=挑戦を受けたという印、ヘストンが実にかっこいい。映画としては「ベン・ハー」の方が明らかに上なのだが、俳優ヘストンとしては、こちらの方が光っているというのが私の持論である)から屋外の城と闘技場までをパンで見せる切り替えが見事。スペインの古城が否が応でも雰囲気を盛り上げる。闘いの前の儀式の見せ方も騎士のプライドがよく伝わり、これにローレンと王女の二人の女の意地までからんで、わくわくさせるものがある。このような中世の一対一の闘いを描いた場面としては、最高のものではないかと思う。
 3番目は13人の騎士との闘い。これは、ストーリー的には大して重要な場面ではないが、静の場面が続いた後だけにリズムとスピード感が際だち、合わせてエル・シドの強さを印象付けるシーンである。繰り返しになるがともかくヘストンがカッコイイので、相手が13人だろうと勝ってしまう説得力がある。ローザの軽快な音楽もいい。
 そして、最後のスペインの存亡を賭けたバレンシアの戦いとなる。空間的にも登場人物の数からいっても、どんどんスケールが大きくなり最後にどーんと大決戦があるわけで、シナリオのうまさである。エル・シドを先頭に突進する騎兵の群れでスピード感を出しておき、敵の大群を挟んで、歩兵の大群を前方からと俯瞰の2ショットで見せる70mm大画面を十分に意識した見せ方もうまい。激突してからのシーンは、もう少し短くてもいいのかな、という気がしないではないが、エル・シドの横に常に旗を配し、彼の位置を観客にわからせるというのも、なかなかの工夫である。この戦いでエル・シドは重症を負うのだが、それまでかたくなに協力を拒んでいた国王が駆けつけ、一気にラストになだれ込むあたりなかなかよくできている。

 バレンシアの戦いの当初に、エル・シドが「神と国王とスペインのために」と言う言葉が、ラストで国王の口から「神とエル・シドとスペインのために」と言い換えられるあたりも、うまい。「かくしてエル・シドは、歴史の門から伝説の中へと駆けて行ったのである」というナレーションに至っては、正座して聞きたいというくらい格調が高い。ラスト、エル・シドを乗せた白馬が画面の右から左へと波打ち際を走っていくシーンなどまさに伝説の騎士が天に駆け昇っていくようで、思わず目頭が熱くなる。「笑点」流に言えば、座布団2枚、いや10枚やりたいくらいのものである。
 国王争いをする兄弟がどちらも髭をはやしていて見分けがつきにくいとか、死んだエル・シドが先陣をきるラストの戦いの布陣がわかりにくい(というか、相手方の布陣と城の造りが最後までわからない)、あるいはインターミッションの前のヘストンがローレンと再び会う前の、エル・シドから水をもらうラザルスという病人のもったいぶった言葉はいったいどうなったんだ、などという細かいことは忘れて、ここは娯楽大作と考え、西洋講談の名調子に身をゆだねようではないか。

幻の「エル・シド」マーチ
 CATVの「ザ・シネマ」チャンネルで先日亡くなったチャールトン・ヘストン主演の「エル・シド」をやっていたので録画してみた。
 史劇大好き人間、70mm映画大好き人間、ローザの音楽大好き人間の私が、あの「ベン・ハー」ヘストンがスペインの英雄剣士を演じたこの映画を見逃すわけはない。公開前から早々とミクロス・ローザ作曲のサウンドトラック盤LPを買い、映画自体も劇場で三度も見ている。もちろんビデオも持っている。NHK-BS2で放送されたものも無論S-VHSで録画したものなのだが、ノーカットなのはいいとしても残念ながらインターミッションの間奏曲(勇壮なマーチ風の曲なので「エル・シドマーチ」とも言われる)がカットされメインタイトルの曲でごまかしていた。どうせ半世紀も前の古い映画だからわかりはしないだろう、ということなのだろうがこちらは当時2000円もしたサウンドトラック盤LPを買い、ハミングできるくらい何度も聞いているのだ。レーザーディスクでも「エル・シド」を見ている(さすがにレーザーディスクのものはちゃんと序曲も間奏曲も終曲も入っていた)。たちどころに「おいおい」ということになったわけだ。インターミッションの時間そのものも短くなっていたので、「安倍様のNHK」としては時間短縮のためこういった「暴挙」にでたのだろう。地上波ではなくBSなのだから完全版を放送するのが「筋」というものだろう。
 民放で放送されるときは序曲までカットされるのがほとんど。それよりはマシというところなのだが、NHKはいわば「有料放送」なのだからここは納得いかない。インターミッションの前と後では十数年の月日が経っているという設定なので、やはりきちんとインターミッションを入れ、その年月の間のエル・シドの数々の戦いと勝利をイメージさせる「エル・シドマーチ」はぜひ聞きたいところである。
 幸い、「ザ・シネマ」チャンネルはノーカット放映なので、よしよしと思って録画したのである(なにせ朝6:00からの放送なのでタイマー録画)。このチャンネルはトリミング版で放送される映画が多いので危惧していたのだが、ノートリミング版で第一関門クリア。序曲もあって第二関門クリア。ところがである、インターミッションがまるまるなくていきなり後半戦に突入してしまったのである。唖然呆然とはこういうことをいう。怒り狂って(^_^;録画データは速攻で消してしまったのだが、こうなると「エル・シド」マーチを聞くにはDVDを買うか、WOWOWで放送されるのを気長に待つしかないのかもしれない。まあ、その頼みのWOWOWも「2001年宇宙の旅」「グランプリ」といったシネラマ映画は平気でトリミング版を放送しているので、油断はできないのだが・・・。
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