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原作に引きずられすぎ「七瀬ふたたび」 [映画の雑感日記]

「七瀬ふたたび」☆☆★★

 もう40年くらい前だろうかNHKが午後6時あたりの早い時刻にこのドラマをやっていて、数回見た記憶がある。ヒロイン火田七瀬を演じていたのは多岐川裕美(このころすでに20代後半だったのではないのか。私の七瀬のイメージは20歳そこそこだったので「おばさんがやるなよ」と思ったものだ)。原作は筒井康隆で「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」と続く3部作の一つ。なぜ真ん中のこの作品からドラマ化されたのかはよくわからないが、「家族八景」が連作短編風なので、長編になっているこちらのほうが視聴者を引っ張っていけるという計算があったのかもしれない。
 その後、このシリーズは何回もドラマ化されたが、映画化されたのは今回が初めて。なんでも「筒井康隆作家生活50周年記念映画」なんだそうだ。相手の心が読める(テレパス)ヒロインを演じるのは芦名星という知らない女優。色黒で田舎くさく、なんだか七瀬のイメージに合わずヤンキーにしか見えない。が、まあ原作からはいろいろな人がいろいろなイメージを得るものなので、文句は言わないことにする(原作者筒井がイメージにピッタリとか言っていたなんて記事があるが、ギャグか?)。

 ただ、このシリーズ、筒井は大いに遊んでいてテレパスの他にも念力(テレキネシスダンテ・カーヴァー)、予知能力者(田中圭)、時間航行者(タイムリープ佐藤江梨子)など超能力者が続々と登場する。こうした超能力者が時の権力から狙われ、追われるというのはヴァン・ヴォクト「スラン」以来のSFの伝統とでもいうべきものだ。SF同人誌までやっていた筒井は、もちろんそんなことは知っている。ステレオタイプ的展開であることを承知の上で大いに遊んでいるのだ(この筒井の遊びは最終「エディプスの恋人」において、ええーっそんなぁというくらい最高潮になるのだが、ここには書かない)。
 そのあたりの「遊び」がわかっていないと、わけのわからない人間(超能力者)が出てきてわけのわからないことが起こり、彼らを狙う謎の組織がやたら発砲し人を殺すという展開がごちゃごちゃになって混乱してしまう。こうした闇権力による殺人集団に追われる話よくあるでしょう、それのパロディですよーという作者の声が聞けるか聞けないかが理解と評価の分かれ目になるだろう。

 それにしても、私はもともとSF少年だったし、このシーリーズ原作も読んでいるので彼らの超能力やその関係についてはあらかじめわかっていたが、予備知識なしにいきなりこの映画を見るのは辛いのではないのか。と同時に、少なくとも「七瀬ふたたび」に限ればこの物語は悲しいくらいに暗い。それは解決への糸口が全く提示されていないからだ。この映画で初めて火田七瀬を知った観客は果してこの結末に満足できるのだろうか。原作を通読していてこの後の展開を知っている私にも原作に近いとはいえ結末には満足できなかった。百歩譲って小説なら許容できるにしても、映画の結末としてこれでいいのだろうか?

 話は少し飛ぶが、007シリーズを思い起せばそのあたりの原作と映画との関係は極論すれば別物なのだということがわかるだろう。傑作の誉れ高い「ロシアより愛をこめて」は全体としては原作の流れにそっているものの、ボンドがオリエント急行を降りてからのヘリコプタやモーターボートの銃撃戦は原作にはない。映画ならではの見せ場をあえて作ったわけだ。だからこそ傑作になった。また、ボンドは毎回のように女性とうまくやってしまうのだが、次の作品ではそんなことありましたかねといった感じで立ち回る。過去の事件についてもせいぜい話の中で出てくる程度のものである。ジェームズ・ボンドなる人物が出てくるというだけで、シリーズ全体がサーガになっているわけではないのだ。

 この火田七瀬のシリーズもそういう意味では七瀬という魅力的なテレパスが登場する3本のお話と考えるべきである(七瀬の年齢などを見ると、007よりは3本の間に関係性はあるのだが)。連作短編でユーモラスな面もあった「家族八景」と比べ、ヒロインは同じでも「七瀬ふたたび」は暗い長編である。小説の場合は私のようにすでに「家族八景」を読んでいて、おっ続編が出たのか、と「七瀬ふたたび」にやって来る者が多いと思うのだが、映画は「その1本」が勝負である。筒井康隆原作ということなので「時をかける少女」のようなものを期待して来るひともいるかもしれない。もし原作をすでに読んでいる人を想定して映画を作っているのだとしたら、バカとしか言いようがない。

 七瀬の話にこの映画で初めて接し、とても暗い出口のないような話に加わってしまった観客にはこの結末はとても納得できるものではないだろう。この結末では、原作に引きずられすぎ映画としての創意工夫に欠けていたと言われても仕方ない。映画には映画として見る者を納得させる別の結末があってもよかったのではないのか。というより、そうすべきだった(きっぱり)。

↓予告編
https://www.youtube.com/watch?v=Jzvh5TSmjl8
七瀬.jpg
☆★は、尊敬する映画評論家・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。合格というか、まあ許せるラインということです)
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