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NHK-BSKIのヒッチコック「めまい」「鳥」など [映画の雑感日記]

 NHK-BSHIでヒッチコックの「めまい」「知りすぎていた男」「引き裂かれたカーテン」「鳥」「泥棒成金」「サイコ」などが放送されている。「めまい」と「鳥」はヒッチコックの代表作、ちょっと落ちるが「泥棒成金」はおしゃれな佳作だし、「知りすぎていた男」はともかくドリス・デイの歌が大ヒットした。さらにちょっと落ちるが「引き裂かれたカーテン」はヒッチの50作目記念作品。「サイコ」はヒッチ最大の話題作ということで納得のいく選択だと思う。
 「めまい」は、「映画」とした見た場合やはりこれがヒッチの最高傑作だと思う。よけいな詮索などせず彼女と一緒になっていれしーばいいのに、それができないのが刑事としての性なんだろう。最高傑作に「鳥」を推す人もいるかと思うが、もちろん異論はない。後の「ゾンビ」ものの定番を作ったという意味でも価値があると思う。
(どうでもいいことだが、「鳥」のテッピ・ヘドレンもスザンヌ・プレシェットも、かっこよく、うまそうにタバコを吸う。いいねえ……。(^^)/)
 ちなみに、この2作の次に私の好きなヒッチ作品は「北北西に進路を取れ」で、多分、世間的には最も有名な「サイコ」はあまりかっていない。「白い恐怖」などもそうなのだが、フロイド物というか、この手の「精神物」があまり好きではない、というか嫌いなためもあるのだと思う。

↓ヒッチについては以前こんな雑文を書いているので再録しておく。

★★★「たかが映画じゃないか」(ヒッチコック)★★★
 「007ロシアから愛をこめて」のヘリコプターのシーンは「北北西に進路を取れ」のいただきだというようなことは、あちこちで書かれている。「北北西」の監督は言うまでもなくサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックである。
 しかし、実は「007ロシアから愛をこめて」を見たときには私はまだ「北北西に進路を取れ」は見ておらず、「007」のクライマックスが「北北西」のイタダキ云々という記事を雑誌で読み、なんとか見たいものだと切望したのであった。こんなところにもビデオが普及していない時代の悲劇があるのだが、切望かなってようやく大学生になってから「北北西」を見ることができた。結果は肩透かし。「北北西」も駄作ではないが、「007」のスピーディーな展開になれた目には、「北北西」はいかにも展開がのろく、第一、ショーン・コネリーと初老のケーリー・グラントでは動きが違った。
 問題のシーンも「北北西」は、農薬を蒔くふりをしていた軽飛行機が襲ってくるが、ケーリー・グラントはただトウモロコシ畑の中を逃げ回るだけで、別にライフルをもっているわけでもない。軽飛行機が操縦を誤ってタンクローリーに激突して炎上するだけである。だいたい話の展開からいって「北北西」にどうしてもこのシーンが必要だとも思えず、こういうシーンっておもしろいんじゃないか、とヒッチが無理やり挿入したのではないか、と私は想像している。話の流れの中できちんと処理し、撃ち落とすところまで見せる007の方が必然性があり、本家より遥かに出来がいい。
 そもそもこの「北北西」という映画、巻き込まれパターンの典型的な映画で、まるで思い付きの行き当たりばったりといった作品なのである。では、否定されるべき作品なのか、というとそうも言いきれないのがヒッチ作品の困ったところである。
 だいたいヒッチコックは、サスペンスの巨匠とかスリラーの帝王などと言われているが、構成には緻密さがあまりなく、場面のおもしろさで見せていく監督だと思う。だから、ヒッチコックの作品は、どれも見ていない人に対して話しやすい。「タイトルの時、ささーっと上や横から線が出てきてそれが国連ビルになるんだ」(ソウル・バスのデザイン。この映画のタイトルデザインが「ウエストサイド物語」のタイトルデザインにつながっていったのだと思う)「飛行機が突然襲って来るんだよ」「ほら大統領の顔が刻まれた山があるだろ、ラストは、あそこで追っかけをするんだ」等々。
 どれも、聞いた人はその映画を見たくなるような話ばかりである。で、見に行くと期待したほどではないが、嘘ではないので、「どんな映画だった?」と聞かれると同じように答えるしかないのである。
 「飛行機が突然襲って来るんだよ」
 考えてみると、ヒッチほど印象に残る場面を撮った監督は外にいないと言っても過言ではない。「レペッカ」の光るコップ、「見知らぬ乗客」の眼鏡に映る殺人現場と暴走するメリーゴーランド、「白い恐怖」のシュールな幻想シーン、「海外特派員」の冒頭の行き交う傘を真上から撮ったシーン、「裏窓」のキスシーン、「めまい」の本当に吸い込まれるような移動ズーム、「鳥」のジャングルジムに群れるカラス、そして「サイコ」のシャワーシーン等々どれも強烈に印象に残るシーンばかりである。「第三の男」のジョセフ・コットンが悪役をやった「疑惑の影」もちょっと中盤タルイところのある映画だが、すごいのは最後に汽車が……、あ、思わずラストをばらしてしまうところだった(^^;。こういう映画でラストを語るのは明らかに反則。いかん、いかん。というくらいにヒッチの映画には、必ず一箇所は印象に残る場面があるのである。だったら、そのどれもが名作か、というとそうでもない。
 「白い恐怖」は退屈なフロイド物だし、「サイコ」は前半と後半で話が分裂している。場面は強烈だが、作品全体として見ると、構成が甘くあまり高い点はつけられないのである。たとえば「鳥」の有名なラスト、今はまだおとなしい鳥の間を静静と車が行くところで終わるのだが、これを「結末がはっきりしないだけによけい不気味だ」と言う人もいるが、私にはヒッチ自身がうまく結末がつけられなくなって投げ出してしまったのだ、としか思えない(「レベッカ」の原作者でもあるダフネ・デュ・モーリアの原作も結末をつけていないが、映画としてあの結末はいただけない。なぜ鳥が人間を襲うようになったかを説明する必要はないが、何らかの結末はつけるべきだと思う)。
 ただ、そうした印象的なシーンが映画人にどんな影響を与えたかは、容易に想像できる。ともかく印象が強烈なので「俺も、あれ、やってみよう」ということになるのである。たとえば、「鳥」の板を打ちつけた扉を破ってカラスの嘴が出てくるというシーンは、後のゾンビが扉を破って手を出すシーンの原型になった。結末のつかないラストは多くのホラー映画で利用され今日に至っている。「見知らぬ乗客」の眼鏡に映る殺人現場という手法は、映し出す物をサングラスやすりガラスに変えてその後多くの映画でも使われている。「サイコ」のシャワーシーンに至っては数えられないほどの模倣者を産んだ。バスルームで殺人が行われると必ず血が排水口へ流れていくシーンや出しっぱなしのシャワーなどが出てくるのである。「めまい」の展覧会場を徘徊する目もくらむようなシーンは、デ・パルマが「殺しのドレス」で臆面も無く使っていた(デ・パルマは恥ずかし気もなくパクルのが大好きな監督らしく、「アンタッチャブル」でもかのエイゼンシュテイン「戦艦ポチョムキン」の映画史上一二を争うほど有名なオデッサの階段を落ちていく乳母車のシーンをそっくりパクッている)。
 「レペッカ」の光るコップは中にライトを入れて撮影したのだそうだが、どうやって撮ったか、撮るのかということは映画人の問題で、観客には関係ない。ただ、今まで見たことのないようなシーンはやはり強く印象に残るのである。「裏窓」のグレース・ケリーがジェームス・スチュアートにキスするシーン(コマ落としのスローモーションを見ているような感じでキスをする)にしてもそうである。そう考えてくると、結局ヒッチコックという人は、人を驚かせて喜ぶ悪戯っ子のような人だったのではないかと思う。とりあえずの手段として映画があったので映画を撮っただけであり、他に手段があれば別に映画でなくてもよかったのだろう。日本の夏の伝統の「お化け屋敷」の演出など頼んだらギャラなしでやってくれたのではないかと思う。悪戯のためのシーンを撮れれぱそれでもう十分なのだが、それでは誰もお金を出してくれないため適当に1本の映画として完成させる。だから他のシーンは極論すればどうでもいいわけで、ヒッチの映画の構成のいいかげんさは、そんなところに起因しているのである。
 ヒッチがバーグマンに言った有名な言葉「たかが映画じゃないか」は、別にバーグマンをリラックスさせるためでも何でもなく、文字通り彼の本音だったのだと思う。
 しかし、作家の意思と作品は別物であることもまた事実である。「たかが映画」の中でも私は「めまい」だけはちょっと違うかな、という気持ちでいる。美女というにはキム・ノバクがデブじゃないか、という欠点はあるにしろ前出の徘徊のシーンにしろ、坂の多いサンフランシスコの尾行シーンにしろ、ストーリーともうまく溶け合ってクライマックスへ向かって突き進んでしまう男女の悲劇を盛り上げている。偶然か必然か、一度見ればもういいや、と思わせる映画が多いヒッチ作品の中にあって、この「めまい」だけは、わざわざ途中でネタを明かしてしまうことといい、ちょっと毛色が違う。従って「めまい」がヒッチの最高傑作である、と私の主張を押し付ける気はないが、私にとって最も気になるヒッチ作品であることは事実である。

 以下に私が見たヒッチコック映画の採点。例によって、いいかげんな採点で全く参考にならないことをお断りしておく。(^^;

『三十九夜』 The 39 Steps (1935) ☆☆☆★
『バルカン超特急』 The Lady Vanishes (1938) ☆☆☆★★
『レベッカ』 Rebecca (1940) ☆☆☆
『海外特派員』 Foreign Correspondent (1940) ☆☆☆★
『断崖』Suspicion (1941) ☆☆☆
『逃走迷路』Saboteur (1942) ☆☆★★★
『疑惑の影』Shadow of a Doubt (1943) ☆☆☆★★
『救命艇』Lifeboat (1943) ☆☆★
『白い恐怖』Spellbound (1945) ☆☆★★(ミクロス・ローザの音楽で★1つプラス)
『汚名』Notorious (1946) ☆☆★
『ロープ』Rope (1948) ☆☆★★
『見知らぬ乗客』Strangers on a Train (1951) ☆☆☆★
『私は告白する』 I Confess (1953) ☆☆★★★
『ダイヤルMを廻せ!』Dial M for Murder (1954) ☆☆☆
『裏窓』Rear Window (1954) ☆☆☆★★
『泥棒成金』To Catch a Thief (1955) ☆☆☆★★
『ハリーの災難』 The Trouble with Harry (1955) ☆☆☆
『知りすぎていた男』 The Man Who Knew Too Much (1956) ☆☆☆★
『めまい』Vertigo (1958) ☆☆☆☆
『北北西に進路を取れ』North by Northwest (1959) ☆☆☆★★★
『サイコ』Psycho (1960) ☆☆☆★
『鳥』The Birds (1963) ☆☆☆☆
『マーニー』 Marnie (1964) ☆☆★★★
『引き裂かれたカーテン』Torn Curtain (1966) ☆☆☆
『トパーズ』Topaz (1969) ☆☆★
『フレンジー』Frenzy (1972) ☆☆★★
『ファミリー・プロット』Family Plot (1976) ☆☆☆★★
めまいと鳥.jpg
☆★は、尊敬する映画評論家=故・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。要するに合格というか許せるぎりぎりのラインということです。)
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サンフランシスコ人

『めまい』.....今年で60周年.....5/20 サンフランシスコで特別上映....

http://www.ticketfly.com/purchase/event/1645627
by サンフランシスコ人 (2018-04-19 03:27) 

迷走ダイアリ

「めまい」いいですよねえ。
それを舞台となったサンフランシスコで特別上映とは、粋なことしますねえ。
by 迷走ダイアリ (2018-04-26 16:23) 

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