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東映の「次郎長三部作」 [映画の雑感日記]

 子どものころ、映画といえば東宝でも松竹でも大映でも日活でもなく、東映。正確に言えば東映のチャンバラ映画だった。盆、正月に泊まりに行って遊んだ従兄弟の家の近くには名古屋東映、生家のちかくにはSK東映があり、見逃しても三番館の中村映劇があった。「次郎長三国志」やくざ映画というより、チャンバラ映画として見たわけだ。
 今回、あらためて3本続けて見ると、悪い奴らがいて最後は「正義の」清水一家がやっつけるというパターンはどれも同工異曲(東映の考えではやくざは、義理人情を重んじる任侠の「いいやくざ」と、利権のために庶民を弾圧する「悪いやくざ」に二分されるらしい)。よくもまあ毎年劇場に通って見たものだと我ながら感心する。今のようにビデオで何回も見たりテレビで放送されるなどということのない時代なので、見ればそれなりに新鮮に感じられたものだ。また、映画館に行くということ自体が楽しい時代だったのだと思う。
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「任侠清水港」☆☆★★★
 これは確か正月映画として見た記憶がある。清水の次郎長はもちろん片岡千恵蔵。その貫禄ぶりには今見ても納得のものがある。もう1人の御大、市川右太衛門は大前田英五郎としての客分出演。森の石松・中村錦之助、追分の三五郎・大川橋蔵、大政・原健策、そのほか月形龍之介、東野英治郎、山形勲、進藤英太郎、東千代之介、大友柳太朗、伏見扇太郎(この人、いつの間にか消えちゃいました)と、正月らしくオールスター映画だった。監督は松田定次。
 話は、おなじみのエピソードがいろいろあって、一旦は鉾を収めた次郎長だったが、都鳥の吉兵衛(山形勲)に森の石松が惨殺されたことを知り、一大決戦を挑む。清水一家がまるで踊るように刀を振り回すと斬られてもいないのに周りの敵はバタバタと倒れてしまうので勝敗は明らか。無事、石松の仇を討って映画は終わる。観客も「いい方」の完全勝利とあって溜飲が下がるというわけだ。

「任侠東海道」☆☆★★
 これも翌年だったかも正月映画だったような気がする。次郎長の片岡千恵蔵はそのままだったが、中村錦之助は前作で森の石松を演じ死んでしまったのでもう清水一家にはいない。しかし、人気絶頂の錦ちゃんを出さないわけにはいかない。というわけで、しれっと桶屋の鬼吉として復活。大政も大友柳太朗にバトンタッチ。大河内傳次郎がさすがの貫禄を見せれば、御大・市川右太衛門も今度は吉良の仁吉として再登場。山形勲、進藤英太郎といったところも前作とは「無関係」の悪役として再登場してくる。「仁義なき戦い」でもそうだったが一度死んだ役者がシリーズの中で(何の説明もなく)別人として再登場してくるのは、いわば東映のお家芸なので驚くには当たらない。
 話は、仙右衛門(大川橋蔵)の叔父一家を皆殺しにした3人をかくまう悪党連中を荒神山で壊滅させるまで。吉良の仁吉はこの戦いで鉄砲に撃たれ一命を落とすが、御大だけにその死に際のかっこよさが引き立つ。御大の機嫌を損ねないためにももう1人の御大・千恵蔵に「吉良の仁吉は富士の山にも似た、男の中の男だったなぁ」とつぶやかせることも忘れてはいない。

「任侠中仙道」☆☆★★
 片岡千恵蔵の次郎長はそのままだが、俳優と役柄はまたまた大幅変動。桶屋の鬼吉は前作で別に死んではいないのだが、本作の中村錦之助は小川の勝五郎。大政も大友柳太朗から若山富三郎にバトンタッチ。人気の問題と言ってしまえばそれまでだが、第1作で大政を演じた原健策は、ナントカの政右衛門とかいう悪役に格下げられてしまった。ちなみに毎回特別出演の御大・市川右太衛門は本作でも下手な役を割り振るわけにはいかず、吉良の仁吉は死んでしまったが、国定忠治として復活している。
 話は、凶作にあえぐ農民を救うため悪いやくざから金を奪い米の買い付けしようという国定忠治。悪人たち(こういう誰が見ても悪い方といい方にくっきり区別されるのがかつての東映時代劇の特徴。悪人を演じる俳優は半固定なので、顔を見ただけで「こいつは悪い方」と子どもにもわかる。いくら農民を救うためとはいえ強盗は強盗だと思うのだが、忠治はあくまでいい人)の計略で忠治一家は次郎長一家と対決しそうになるが(両御大が刀を交えるシーン初めて見た)、そこは東映。悪党の策略を知った両一家が悪人たちをバッタバッタと斬り倒し、めでたしめでたし。今回も御大・千恵蔵に「国定の、俺ぁ、お前さんを忘れねえぜ」と言わせている。それにしても(この映画も間違いなく見ているはずなのに忘れていたが)、ラストシーンで清水一家が、赤城山に向かう忠治一家に、さよなら〜と笠を左右に振るのには思わず笑った。

 このほか片岡千恵蔵の次郎長物には確か「勢揃い東海道」というこれまたオールスター映画があったはずだが見ていない。いや、見ている可能性がないではないのだが、どれも似たような話なので記憶にない。次郎長物には、東宝版の「次郎長三国志」(次郎長・小堀明男、森の石松・森繁久彌)、東映版の「次郎長三国志」(次郎長・鶴田浩二、森の石松・長門裕之)があり、監督はいずれもマキノ雅弘だがこれも見ていない。

 それにしても御大・市川右太衛門は「旗本退屈男」くらいしか浮かばないが、片岡千恵蔵は、清水次郎長をはじめ、「忠臣蔵」の大石内蔵助、「いれずみ判官」の遠山の金さん、「大菩薩峠」の机竜之助、「七つの顔」の多羅尾伴内、宮本武蔵、金田一耕助と主演作がいくつも思い浮かぶ。渋いところでは工藤栄一監督の「十三人の刺客」の主演・島田新左衛門役。リメイク版の役所広司と比べればその貫禄の差がわかろうというものである。テレビでは加藤剛主演の「大岡越前」で越前の父親役をさすがの貫禄で演じていたのが記憶に残っている。文句なしの大スターだと断言したい。
 ところで、名古屋に「千恵蔵ビル」というのがあり、片岡千恵蔵御大が建てたビルだという話を聞いたことがあるが、本当だったのだろうか?

☆★は、尊敬する映画評論家・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。合格というか、まあ許せるラインということです)
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