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白黒でよかった「切腹」 [映画の雑感日記]

「切腹」☆☆☆★

 NHK-BSで小林正樹監督、仲代達矢主演の「切腹」をやっていた。以前、ビデオで見たことがあるが、久しぶりなので後半部分のみ例によって適当にくつろいで見た。三池崇史監督、市川海老蔵主演「一命」の元映画である(この映画は未見のため、どの程度元映画をなぞっているのかわからないので、滝口康彦の「異聞浪人記」という原作が同じと言っておこう)。というか、「一命」が多少は話題になったことによる放送なのかもしれない。
 家の前で腹切りをされたら嫌だから金を払って引きとってもらう。その風潮に頭に来たおっさん(三國連太郎)が、どうぞ腹を切れと言う。ところがその男(石浜朗)、タケミツ。まあ、その痛そうなこと。そのあまりに理不尽な仕打ちに切れた仲代達矢(石浜は仲代の娘婿)が・・・。てな話なんだが、名手・橋本忍にしては仲代の話の合間に回想がその都度入るという構成がどうにもかったるい。本来なら仲代と丹波哲郎との斬り合いなど手に汗握る迫真の場面になるはずなのだが、そのことを仲代が語っているのだから結末は見えているわけで、全然はらはらドキドキしない。最後、仲代も斬り死にするわけだが、三国家はお咎めがないどころかむしろ賞賛される。
 ・・・という、武家社会の見せかけ、矛盾を突きたいのはわからんでもないのだが、これではあまりに映画が暗い一本調子で、どうにも見続けるのが辛い。その上、見終わった後味もよくないときているのだから、なんだかなぁということになる。結局のところ制作側の意図はこちらには伝わらず、ただただハラキリの痛そうだなぁという印象だけが残る。
 この映画はカンヌでも賞をとり、日本の名前は忘れたが何かの賞をとり、橋本忍は、この映画の脚本で確かブルーリボン賞だったかを受賞しているはずだが、私としてはそれほどの映画なのか、ちょっと、いや大いに異論がある。調べてみたら1962年の作品。60年安保の後か。時代だったんだろうなぁ。
 ただ、そんな映画だが俳優陣はなかなか健闘している。今、改めて見ると、仲代達矢、三國連太郎、丹波哲郎はもちろん、中谷一郎(「水戸黄門」の風車の弥七)、稲葉義男(「七人の侍」の五郎兵衛)、井川比佐志(「青春の門」「御用金」)、小林昭二(ウルトラ警備隊隊長、仮面ライダーのおっさん)、石浜朗(「人間の条件」「不毛地帯」)等々、このころはいい役者がそろっていた。いつも、ちょっと違うなぁと思う演技の岩下志麻も、鬼気迫るいい演技だった。やはりアイドルやバラエティ芸人がちょっと役者やってみました、というのとはひと味もふた味もちがう。てなわけで、武満徹の音楽がなかなか効果的なのと役者のおかげで★1つプラス。
 最後に、この映画、白黒でよかった。これがカラーだったら、ほとんどスプラッタムービーで、血の嫌いな私としては絶対に最後まで見られなかったと思う。
切腹.jpg
☆★は、尊敬する映画評論家・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。要するに合格というか許せるぎりぎりのラインということです。)
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