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山田洋次の「時代劇」三部作 [映画の雑感日記]

山田洋次の「時代劇」三部作

「たそがれ清兵衝」 ☆☆☆★
 真田広之、宮沢りえ、伊藤未希、大杉漣、田中泯、小林稔侍
「隠し剣 鬼の爪」 ☆☆☆★
 永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、高島礼子、緒形拳
「武士の一分」 ☆☆★★★
 木村拓哉、檀れい、笹野高史、小林稔侍、緒方拳、桃井かおり

 結局のところ山田洋次監督は、時代設定を変えて「寅さんを作りたかったんだな」。すでに見たことのある3本だが、WOWOWで連続放送されたものを見てそう思った。毎度おなじみの失恋をした寅さんが団子屋から消え、「今ごろどうしてるんだろうなあ?」と話をしていると1枚の葉書が届く。で、ラストは、たいていは話の初めのころに出会った旅回りの一座と出会ってとか、どこかの祭りで顔見知りの人と出会って……なんて感じで交流が生まれる。寅さんは決して独りぼっちではない、と観客も安心して見終わり、いい気分で映画館を出てこられる。寅さんと違い、「時代劇」三部作ではラストで主人公と相手の女性とはうまく結ばれるのだが、絶望的な状況から最後にほっとする温かさを観客に与えて終わるあたりの呼吸が、寅さんと同じなのだ。もっとも、これは「家族」などシリーズ外の作品でも同じなので、山田洋次の持ち味と言ったほうがいいのかもしれない。
 気になったのは、どれも藤沢周平の原作は短編で、それを2時間以上の映画にするために他の短編のエピソードを加えたり、新たな登場人物を加えたりしているのだがどうも今ひとつうまくいっていないことか。たとえば、「隠し剣 鬼の爪」では原作にない永瀬正敏の妹夫婦との交流などがかなり丁寧に描かれているのだが、そのおかげで主題が散漫になってしまったことは否めない。また、アクションはあまり得意でないのか、どうにも迫力が感じられない。まあ実際の斬り合いはこんなものかなとも思うのだが、映画なんだからリアリティが感じられればいいわけで、手に汗握るシーンがやはり欲しい。
 キャスティングもちょっと首を傾げるものばかりで、真田広之はともかく、永瀬正敏はどう見てももっさりしていて剣の使い手には見えない。ただのダサイおっさんにしか見えず、動きにキラリと光るものがないのだ。まあ剣は見た目ではないのだから、どこかで、「できる!」というエピソードがあればいいのだが、それもないので最後に討伐を命じられるあたりに不自然さが感じられた。そのため、「対決」も盛り上がらない。
 最悪は木村拓哉で、まあ松竹としてはキムタク人気に乗っかろうとしたのだろうが、永瀬以上に剣の使い手に見えない。バラエティ番組に出ているのを見ると木村はけっこう運動神経はいいようなのだが、「そう見えない」というところが辛い(役者は「そう見えれば」いいのだ。「七人の侍」の宮口精二など他の映画では気弱な小男にしか見えないが、「七人の侍」では身のこなし、しゃべり方ともに剣の達人として非の打ち所がないように「見える」。「野武士が来た」という合図の拍子木音に反応して走る姿など、腰がすわり上体が全くぶれていない。実に素晴らしいではないか)。さらに木村が致命的なのは、あいかわらずの「ため口」しゃべり。役者じゃないのだから、と言ってしまえばそれまでなのだが(それを言うのなら役者をやるな)、設定は武士なんだから不自然極まりない。結局、ため口で違和感のない役しかできないのだろう。キムタク人気に頼ったおかげで興行収入は上がったかもしれないが、映画そのものをぶち壊してしまったわけで、残念な結果だった。
 で、3本続けて見た結果、山田洋次監督は、「時代劇」は得意ではないのだろう、という感じを受けた。要するに、時代劇のおもしろさがわかっていないのだ。いや、わかっているのかもしれないが、そういう映画は撮る気がないのだ。撮りたいのは昔の時代の「寅さん」であり「家族」なのだ。とすれば、それは時代劇というより歴史劇であり人情劇で、その部分では実にうまいものである。「隠し剣 鬼の爪」のラストの松たか子の台詞など座布団1枚は確実にあげられる。だったら、なぜ藤沢周平の原作を選んだのかということになるのだが、そこにはまあ「大人の事情」というやつがあるのだろう、ということにしておこう。
山田洋次.jpg
☆★は、尊敬する映画評論家=故・双葉十三郎さんの採点方法のパクリで、☆=20点、★=5点(☆☆☆が60点で「可」。要するに合格というか許せるぎりぎりのラインということです。)
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