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『TOSHI』シナリオ [短編・雑文]

 新撰組の土方歳三を主人公にした「TOSHI」を書いたあとで、知り合いの漫画家から漫画にしたいと言われて、第一回分のシナリオを書いた。が、シナリオを渡す前に私の入院騒ぎなどあり、そのままになってしまった。せっかく書いたので「プロローグ」としてアップしておこう。本編「TOSHI」は、まだ切り出しが終わらないのでもう少しお待ちを。

 幕府の御典医であり、後に明治政府の初代陸軍軍医総監にもなった松本順(良順)は、新選組副長・土方歳三のことを、こう書いている。
「歳三は、鋭敏沈勇、百事を為す雷の如し。近藤に誤なきは、歳三ありたればなり」
     *
 だっと刀が抜かれる。
(刀の素早い動きと、ぎらりと光る刀のアップ。人は入らなくてOK。ともかく質感のある刀がものすごい勢いで抜かれるところから入ります。)
「ひえーっ」
 と、驚きの悲鳴。六十がらみのほとんど白髪に近い親父が(刀屋の店主)が、腰を抜かしたようなかっこうであとずさりる。
土方歳三・ふうむ……。
 鋭い眼光で抜いた刀を値踏みする。「役者のようだ」と評されただけあって、いい男である(主人公です。残っている写真は三十半ばのもの。このとき二十九歳。あの写真をもっと若くした感じでかっこよく)。が、その目には人を斬ったことのある者だけがもつ独特の暗さと威圧感がある。
店主・お気にめしましたでしょうか?
 おずおずと尋ねる。
歳三・京へ上ることになったのでな。それなりの刀がいる。
店主・ほう。これはまた物騒な所へ。
歳三・だから、行く。
店主・…………。
歳三・おい。
店主・へ、へい。
 何しろ抜き身の刀をもっているのである。腰が引けている。
歳三・銘は?
店主・あ、はい。兼定でございます。
歳三・兼定?
 ぎろりと店主を見る。
店主・十一代和泉守兼定二尺二寸八分。お気に入りましたでしょうか?
歳三・???
 実は、刀のことなどまるど知らない(全体としては力作劇画だが、こういうところは目を点にしたりしてとぼけた感じを出す)。「銘は?」と訊いたのは、単にカッコつけただけのことである。兼定と聞いてもそれが名刀なのかどうかさっばりわからない。歳三の頭の中は、大混乱。大きく咳払いをして、
歳三・兼定というと、虎徹とどっちが上だ?
 訊いた。
 回想。歳三の頭の中のイメージ
 近藤・むふふふ……。
 にこにこしてやって来ると、ぎらり、いきなりと刀を抜く。
 歳三・あっぶねえ。
 思わず避ける。近藤、そんなことにはお構いなしで、
 近藤・見てくれ。虎徹だ。
 自慢げに言う。
 近藤・歳さん、何といっても武士は刀だよ。刀。
 ぐわっはっは……。豪快に笑う。
 再び刀屋の中。
店主・虎徹とですか?
 歳三の鋭い視線を受けておたおたしながら、それでもさすがに商人である。口元には商売笑いを浮かべている。
店主・まあこういうものはどちらが上かと言われましても、好みの問題としか言いようがありませんが……。確かに虎徹といえば蟷螂を切ったという伝説があるほどの名刀でございまして(そのイメージ)大名もほしがる刀でございますが、蟷螂が切れるからといって人も斬れるとは限りません。実戦といいますか、どちらが切れるかということになればそれはもう、……。
歳三・兼定か。
店主・はい。
歳三・ふうむ……。
 歳三、刀に見入っていたが、いきなり、
歳三・でやっ!
 斬る。
 導入のところのような、刀の動きのアップ。店主のもの凄い悲鳴。見れば、店主の前の小机が真っ二つになっている。その後ろで、店主、ほとんど気絶に近い状態。歳三、刀を見る。刃こぼれ一つしていない。「にやり」と笑って、刀を鞘に納める。
歳三・気に入った。いくらだ?
 売れるかもしれないとなるとさすがに刀屋の店主である。気絶寸前から瞬間的に回復し、すっかり勘定高い商人の顔になっている。
店主・さすがお侍さま。お目が高い。
歳三・世辞はいい。
店主・とんでもございません。入っていらしたときから私は只者ではないと……。
 あれこれかれこれぐちゃぐちゃとお世辞を言う。
歳三・ともかく、この刀、いくらなんだ?
店主・はいはい。刀は、いいお侍様にめぐりあうのが幸せというもの。せいぜい勉強させていただきます。そうですねえ……。これくらいでは?
 片手を広げる。
 ちょっと驚いたような歳三の顔。
 頭の中のイメージ。劇画というより漫画の顔になり、「五両!」「や、安い!」と、跳び上がって喜んでいる。
歳三・買おう。
 喜びを押し隠し、難しい表情を作り、懐から五両を取り出す。もったいぶって店主の前に置く。店主、五両を見て驚く。顔を上げて歳三の顔を見る。ちょっと小馬鹿にしたような表情になっている。
店主・お侍様、これは?
歳三・だから、代金の五両だ。
 店主、呆れたような顔になっている。
店主・ご冗談もほどほどにしていただきませんと。
歳三・何か?
店主・失礼ながら、物には相場というものがありまして……。
歳三・???
店主・腐っても、兼定でございますよ。中でも十一代といえば二代に次ぐ名工。それを五両などと、……。
歳三・しかし、亭主、今、確かに五両と言ったはずだが。
店主・お侍様、私も商売人でございます。
 商人の厳しい顔になっている。
店主・どこに兼定に五両などという値をつけるうつけ者がおりますか。一桁違います。
 びしりと言う。
 言われてみればその通りである。兼定なら五十両でも安い。しかし、歳三の手持ちは五両である。五両と五十両では交渉して何とかなるという差額ではない。とても歳三が買える刀ではない。かといって、刀を見てしまった以上、
「五十両では高くて買えない」
 と引き下がるわけにもいかない。
店主・どうなさいますか?
 言いながらも、すでに金のない客と見極めている。歳三の手にある兼定に手をかけ、仕舞おうとする。
歳三・待てい!
 兼定を、だっと抜く。
店主・ひ、ひえーっ!
歳三・こう見えても、拙者、耳はいい。
 ずいと店主に近づく。
歳三・拙者の耳には、確かに五両と聞こえた。
 顔を、ぐいっと店主の顔に寄せて言う。
歳三・聞き間違いではない。五両と言ったはずだ。
 じろりと睨んだ切れ長の目が、少し血走っている。そこに狂気の光が宿っている。明らかに人を斬ったことのある目である。
店主・……あわ、あわあわ……。
歳三・そうだな。
 抜き身の兼定を持ったまま、念を押す。歳三の顔が、さらに近づく。こうなると、もう顔自体が凶器である。
店主・は、はい。
歳三・よし。
 パチンと刀を納める。
歳三・これはおまけだ。
 自分の差してきた刀を店主に渡すと、
歳三・お主も商売上手だな。
 兼定を腰に差し、悠々と店を出ていく。
店主・……ほう。……。
 深い吐息と共に、その場に崩れ落ちる。命があったのが不思議なくらいのものである。
     *
 以下、簡単に当時の時代背景と、江戸時代の近藤勇を中心とする試衛館の面々、歳三の簡単な紹介。コミカルなタッチで。
 文久三年(一八六三年)。
 一八六〇年には「桜田門外の変」があり、井伊大老が斬られている。同年には、勝海舟が、咸臨丸で太平洋を横断。一八六一年には、皇女和宮が、政略結婚の犠牲となって将軍家茂に降嫁。翌、一八六二年には、「寺田屋事件」「生麦事件」と、日本史に残るような大事件が立て続けに起こっている。
(激動の時代をイメージさせるように各事件を重ねるようにして、さっと見せる)
 まさに、激動の時代である。
 この年、庄内藩の出で、北辰一刀流を収めた攘夷論者である清河八郎の発案による「浪士隊」の募集が行われた。名目は将軍が京へ上るにあたっての護衛。幕府から一人五十両の金も出るという。
「ご、五十両も!」
 驚きと笑いが一緒になった田舎者・近藤勇の顔。
「ようし。浪士隊に応募するぞ!」
 試衛館の面々に向かって言う。
 その中に、土方歳三の顔も見える。
 この頃、同じ多摩出身で近藤より一つ下の土方歳三は薬の行商もうまくいかず、近藤が師範をつとめる町道場・試衛館にころがりこんでいた(傾いた道場の建物。みすぼらしい「試衛館」の看板見せる)。
 というと聞こえはいいが、ようするにタダ飯食いの居候のようなものである。同じようにタダ飯にありつこうと住み着いてしまったのが他にも十数人もいる。
(てんこ盛りの飯をがつがつ食べている原田左之助や永倉新八、井上源三郎といった面々。各人のイメージは、小説の方からとってください。ただし沖田は、ラストでかっこよく登場させたいので、ここでは顔を出さないこと)
 このような脱藩者から百姓までが居候を決め込み、当時の試衛館は、一種、「水滸伝」の梁山泊のような様相をていしていたのである。
浪人1・ぜひ弟子に。
近藤・よいよい。まあ飯でも食ってけ。
浪人2・なにとぞ弟子に。
近藤・よいよい。まあ飯でも食ってけ。
浪人3・タダ飯を食わせてくれる道場というのはこちらかな?
近藤・よいよい。まあ飯でも食ってけ。
子供・おじちゃん、腹へった。
近藤・よいよい。まあ飯でも食ってけ。
 居候は、どんどん増える。
(中には得体の知れないような者もいる。浪人描き分けておもしろく。このあたりはパッパッと話が進む。絵はオーバーに描く)
 部屋の中得体の知れない連中がぎっしり集まってもくもくと飯を食べている。
近藤・ぶははは、人が集まるというのは、まあ拙者の人徳のいたすところかのう。
 大得意の近藤、拳を口から出し入れしながら上機嫌である。
 しかし、ちっぽけな町道場に明日はない。
町行く侍・(誰かにインタビューされているような構図で読者の方を向いて)試衛館? 北辰一刀流の千葉道場なら知っておるが。
 試衛館のボロ看板、かくんと落ちる。
 ひゅー、と木枯らし。
近藤・ありゃ、米が……。
 空の米櫃を見て、拳を口に入れたまま、呆然とする近藤。
近藤・ありゃ、金も……。
 財布を逆さにしても何も落ちてこない。
 どたどたと走ってきて、
近藤・歳さん、歳さん。金持ってないか?
歳三・あるわけないだろ。そんなもの。
 歳三、空の財布を振る。
近藤・実は、……。
歳三・何っ。米も金もない!
 思わず大声を出す。
近藤・しっ。
 道場の方から、「そろそろ飯の時間かなあ」という原田左之助の呑気な声が聞こえてくる。
近藤・どうしたもんだろ?
歳三・ふうむ……。
 考え込む。
近藤・彦五郎さんところで借りられないか?
 佐藤彦五郎。歳三の姉・おのぶが嫁いだ相手である。
歳三・あそこは、先月十両も借りたばかりだ。
近藤・そうだよなあ……。
 二人揃って、
「ううむ……」
歳三・仕方ない。押し込み強盗でもやるか。
(そのイメージ。こういうときのイメージは、どんどん悪い方へと流れていく。押し込んだのはいいが、すぐに捕まり、二人並んで獄門台に首をさらされている。それを烏が突っついている。)
二人・(顔を見合わせて)いや、押し込みはいかん。
 そんなときに耳に入ったのが、幕府・浪士隊の募集である。
「浪士隊に入れば、飯が食える」
 幕府の募集に応募するといえば聞こえはいいが、要するに「夜逃げ」のようなものである。しかし、京へ行けば勤王浪士と斬り合いになるのは必定。となれば、それなりの刀がいる……。
     *
 刀屋を出た歳三、にこにこしながら歩いて来る。
 立ち止まって刀を抜く。折からの月の光に、兼定がキラリ光る。
歳三・ううむ……。
 とてつもなく真剣な表情で何事か悩む。
「月光を 浴びて輝く 刀かな」
(歳三の詠む俳諧は、写植ではなく、絵の中に筆で書き込む。コマの外から近藤が「まんまやんけ」ちゃちゃを入れる。歳三、コマ外の近藤をポンと蹴飛ばしておいて→蹴飛ばされた近藤、口の中に拳を突っ込んだまま全身絆創膏)
 歳三、筆で書かれた自分の俳諧を見て、
歳三・ふむ。なかなかいい出来だ。
 一人悦に入り、刀を納める。
 その時、月に雲が差す。ふっと辺りが暗くなる。
 歳三、途端、厳しい表情になる。
 薄暗い空気の中に、何かが動いたような気がしたのだ。
 いや、気のせいではない。微かだが、殺気が感じられた。それも、一つではない。
(襲ってくるのは三人。黒い影で描いてください。当初はよくわからないので、ぼんやりとした影で不気味な妖怪のように描く)
 警戒しながら歩き出す。
 路地に影が隠れたように見える。
 ところが、路地の所まで来ても何事も起こらなかった。
 歳三、気のせいか?という顔をする。
 その時、
「きぇーっ!」
 いきなり頭上から影が振ってきた。慌てて兼定を抜き、刀を合わせる。青白い火花が散った。その横からさらにもう一つの刀が襲ってくる。さらに、もう一つ。相手は、三人である。
(このあたりの立ち回り、スピード感と迫力出してください。相手は流れるようなシルエットで、火花が散ったときは陰影を濃くして顔がはっきりとはわからないように)
 歳三、刀を持ったまま、だっと走る。
 逃してはならじと、三つの影が追う。
 歳三、いきなり向きを変え、中央の一番大きな影に斬りかかる。
 刀が合わさり、金属音と共に大きな火花が散った。相手の顔が見えた。髭面の大男である。
歳三・貴様!
(この瞬間、歳三には、相手が誰なのかわかったのである)
 歳三の頭に浮かんだイメージ(昼間の出来事の回顧。タッチ少し変える)
 この日の昼間。試衛館の道場の中
 (相手は、道場破りである。小説の第一章参照のこと)
 歳三の突きにどーっと飛ばされ気絶する大男。
 「おい。しっかりしろ」介抱する二人の仲間。
 (三人は髭面の大男、貧相な小男、痩せた浪人で描き分ける)
 歳三・死んじゃいねえよ……。
 気絶した髭面男を両脇から抱えるようにして逃げ去ろうとする三人の背中に、歳三のきつい一言。
 歳三・小便で顔でも洗ってから出直して来い!
 襲ってきたのは、その三人である。
 髭面男と刀を合わせている背後から不意に刀が襲ってきた。歳三は、間一髪かわした。刀が斬り裂く空気が感じられるほどの至近距離だった。
 飛び退きざま、刀を走らせた。
 手応えがあった。
 痩せ浪人、「うわっ」と刀を落とし、自分の腕を見る。肩から二の腕にかけて血塗れになっている。
痩せ浪人・わわっ、ち、血だ!
歳三・来るか!
 刀を向ける。
痩せ浪人・血だ。血が出てるよー。
 泣き叫びながら逃げて行く。
歳三・来るか!
 小男に刀を向ける。
小男・うわあ、待ってくれー
 その後を追うようにして、逃げる。
髭面男・うわっ、うわっ、うわっ。
 歳三の腕は、昼間の立ち合いでわかっている。刀をめちゃくちゃに振り回し逃げようとするが次第に追いつめられ、土塀を背負うような形になる。
 もう逃げられない。
髭面男・うぇをやぁぁーっ!
 意味不明の気合い発したが、突然、刀を投げ出し、がばと歳三の前にひれ伏す。歳三、予想外の展開に目が点。
髭面男・いいい、命ばかりは……。
 必死の形相で拝む。
髭面男・拙者、妻子のある身、なにとぞ。なにとぞ……。
 地面に額をこすりつけるようにして命乞いをする。歳三、急に馬鹿馬鹿しくなる。せっかく手に入れた名刀・兼定だ。こんな馬鹿を斬っても兼定の汚れである。パチンと刀を納める。
歳三・消えろ。
 一言言って、背を向ける。その時、髭面男の目がキラリと光る。道場で負けた腹いせに闇討ちをしようという男である。所詮、卑怯者なのである。さっき投げ出した刀を拾い、立ち去ろうと歩き出した歳三の背中に、いきなり斬りかかる。
 だっと斬りかかってくる刀を、歳三、身を翻してすれすれに避ける。その時には歳三すでに刀を抜いている。
 歳三、上から下へ、ズンと斬り降ろす。
 髭面男は両断され、歳三の刀は漫画のコマまでも同時に両断している。
(このコマ、大きく)
歳三・斬れる!
 満足げに兼定を納める。
「お見事!」
 突然、声が掛かる。
 ギョッとして声の聞こえた方を見る。
「これで目録はないなあ。十分に免許の腕はありますよ」
 影から少しひ弱とも思えるひょろりとした青年が出てくる。
歳三・なんだ総司か。
沖田・なんだはないでしよう。
(「やっと出番がきたと思ったのに……」ぶつぶつ言っている)
歳三・京へ上る前祝いだ。一杯やるか。
 沖田、にこりと笑って頷く。清々しい笑顔である。
     * 
 この時、土方歳三 二十九歳。沖田総司 二十二歳。青春の盛りである。

未完
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